台湾東部に位置する台東県は南島(オーストロネシア語族)文化の重要な拠点であり、その文化のルーツははるか昔にまで遡ります。原住民族が祖先から受け継いだ生活の知恵は様々な伝統工芸品の中に残されており、中でも木彫りはその代表と言えるでしょう。

木彫りには人々の自然に対する畏敬の念が記録されており、世代を超えてこの土地に伝わる思いが残されている証でもあります。

木雕藝術村 圖片來源:igchristina Yihsuan Jpg

(Photo credit: IG@christina_yihsuan)

木彫りのルーツは史前まで遡ることができ、当時より原住民族は農具や家具といった日用品に部族の文化を伝える彫刻や装飾を施し、それらの日用品を美しくするだけではなく伝統を後世へと伝え残す為の手段として使用しました。時代の経過と共に彫刻には個人の表現が重要視されるように変化していきましたが、木彫り文化はいつの時代も変わることなく原住民族が自然と対話をする為の重要な媒介となっています。

近年、多くの木彫り芸術家が流木を創作材料として使い始めています。自然からの洗礼を受けた流木はこの世界との深い繋がりを彷彿とさせるような力強い質感を持ち、芸術家達はこれらの天然材料と真摯に向き合い新たな命を吹き込み、人間と自然の相互作用を想像させる彫刻作品へと昇華させています。

台東縣政府

(Photo credit: Taitung County Government)

アミ族の木彫り彫刻家希巨蘇飛の作品「地球怎麼了(どうした地球)」はその一例と言えるでしょう。彼は流木に人と環境の対話を表現した彫刻を施し、テクノロジーの進歩がもたらすかもしれない環境破壊を見る人に思い越させます。原住民の年配者達は「自然からの借り物はいつか返さなければいけない!」と話し、天然資源は一時的な贈り物であることを人々が弁えて、尊重と保護をしていかなくてはならないと若者達に向けて語りかけています。

臺灣原住民族當代藝術

(Photo credit: 臺灣原住民族當代藝術)

もう一人の大物芸術家陳文生(哈古)もまた、木彫りを通して部族の生活を記録しています。彼は部族の家々を訪れる中で牛の姿勢を観察して彫刻することを始めました。彼が作り出した荒々しさを感じさせる無骨な線は力に満ち溢れており、完全な模写以上に生命力を感じさせてくれます。1998年、陳文生は政府の補助金を得て故郷に彫刻芸術村を設立し伝統工芸の継承を行っています。

饒愛琴伊命工作室

(Photo credit: 饒愛琴伊命工作室)

そしてもう一名、木彫りに現代的な技法を取り入れた卑南族の芸術家伊命は自らの体験を伝統や自然にリンクさせるという技法を用いた作品製作を行っています。山や海の風景を眺め、祖先が暮らした場所を想像するなど創作課程に「感受性」を取り入れ、土地との深い繋がりを感じさせる作品を製作しています。彼は原住民文化の中でも精神の核となる部分が非常に重要であるとして、自らそれらを体験することで置かれている環境を認識して部落との繋がりを確立しています。

また現代において木彫り芸術は国際舞台でも脚光を浴びています。2024年開催の「第13回太平洋芸術節」では台東県の原住民代表チームが世界に向けてその独特な南島(オーストロネシア語族)工芸と造船技術を披露し、彼らの持つ豊富な海洋文化を分かち合いました。県政府とハワイの奇摩凱基金會(Kimokeo Foundation)は木彫りの立柱やカヌーを南島(オーストロネシア語族)文化の友好関係の継続と文化の継承を象徴する贈り物として交換しました。

原住民族の木彫りには技術の伝承だけではなく、部族の人々が持つ記憶や土地に対する認識が凝縮して詰め込まれています。現在、若い世代は木彫りに新しい解釈を持ち、現代的な視点と伝統工芸を融合しこの土地の物語を世界に向けて発信しています。これは自然と人が共生していることを物語る曲の中の一楽章であり、時間や空間の洗礼を受けてなお生命力に溢れ、まばゆい輝きを放ち続けています。

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