台東は台湾を代表する檳榔の産地であり、かつては噛み檳榔文化が主流でした。檳榔は、原住民族社会において自然と共に生きるオーストロネシア文化の象徴でもあります。アミ族の伝統の中で、檳榔は多くの社会的意味を持ち、来客へのおもてなし、祭祀の供物、愛情を示す象徴としても用いられます。豊年祭では、少女が意中の男性の情人袋(恋人袋)に檳榔を入れて愛を伝える風習もあります。アミ族にとって、青い檳榔の実「青仔」は単なる食べ物ではなく、深い象徴的意味を持ちます。実の中に水分があり甘みがあることから、母乳にたとえられ、母親の象徴とされています。時代の変化や健康意識の高まりとともに、檳榔の価値は伝統的な嗜好品から、多様な用途へと広がりました。

@osullivan.519

(写真提供: @osullivan.519)

關山公所

(写真提供: 關山鎮公所)

@sosa Kecele

(写真提供: @sosa_kecele)

檳榔葉の再発見

健康意識の普及により檳榔を噛む人は減少しましたが、檳榔の葉鞘はアミ族の創作活動によって再び注目を集めるようになりました。アミ語では、檳榔の葉鞘にはいくつもの呼び名があります。Baroは「落ちたばかりの檳榔葉鞘」、Kalungは都蘭部落で作られる葉鞘の箱、Cifilは花蓮海岸線のアミ族が使う容器を指します。かつて廃棄物とされていたこれらの葉鞘は、今では貴重な工芸素材となっています。樹幹から果実までを無駄なく活用する伝統の中で、檳榔葉工芸は自然と共生する生活の知恵を体現し、オーストロネシア文化における伝統技術と環境共生の理念を映し出しています。

米麻岸 (2)
米麻岸 (3)

(写真提供: Mima’an工作室 )

Mima’an工作室の革新実践

都蘭部落にあるMima’an工作室は、故郷に戻ったアミ族の姉妹、高莎莎と高綵霜によって設立されました。米麻岸(Mima’an)はアミ語で「何を作る」という意味です。彼女たちは檳榔の葉鞘を再設計し、カラフルなスリッパや照明、収納箱などの生活用品を製作しています。これらの作品は、アミ族が大切にする「美、綺麗」への感性を表すとともに、葉鞘の自然な模様や質感をそのまま生かし、一つひとつが世界に一つしかないアート作品となっています。

@marcia02171 (2)
@marcia02171

(写真提供: @marcia02171 )

文化の継承と対話

Mima’an工作室の創作理念は、アミ族の伝統文化に根ざしつつ、現代デザインの美学を融合させています。彼女たちは檳榔葉スリッパを携えてタイの展示会に参加し、現地の若者たちが檳榔の素材で弁当箱を作っていることを知りました。この文化的な共感を通じて、檳榔工芸が持つ国際的な可能性をより確信するようになりました。工作室では化学的な防水塗料を一切使用せず、すべての製品が使用後に自然に分解され、土へと還ります。創設者の言葉を借りれば、「原住民族にとって環境保護とは、特別な行為ではなく、生活のあり方そのものなのです。」これらの工芸作品を通して、Mima’an工作室は文化と環境の対話を築き上げ、伝統の知恵を現代生活に再び輝かせ、台東の文化創意産業に新たな活力と可能性をもたらしています。

米麻岸

(Photo credit:  Mima’an Studio )