甘さを未来へ: 台東のフルーツ保存法 |
台東は、肥沃な大地、豊かな生態系、そして多様な海洋生物に恵まれた、自然豊かな場所です。しかし、台風や地震などの自然災害、部族間の争い、移住の波、植民地主義といった、予測不能な出来事にも度々見舞われてきました。さらに、人口の少なさや地理的な要因から、物資の供給も不安定になりがちでした。こうした厳しい環境の中で、台東の人々は、独自の保存技術を育んできました。肉、魚、果物、野菜、穀物、茶など、様々な食材を塩漬け、漬物、発酵、燻製、乾燥させることで、食料を長期保存し、地域の食文化を豊かにしてきたのです。これらの保存技術は、単に食料を保存するだけでなく、台東の人々の知恵、工夫、そして逆境に立ち向かう力強さを物語っています。今回は、その中でも果物の保存に注目します。天日干しのドラーフルーツ、客家の伝統的なパイナップルジャム、レモンビネガー、果実酒、健康飲料など、果物保存がどのように台東の文化的な強さを支えてきたのかを探っていきます。 台東の肥沃な大地、森や畑は、多彩で色鮮やかな果物や甘味農産物を育んでいます。鹿野平原に広がる一面のパイナップル畑、関山の「夏雪マンゴー」、成功や東河で栽培されるネーブルオレンジやバレンシアオレンジ、レモン、そして台東全域で生産されるアテモヤやバンレイシ。台東は長らく世界有数の産地としてその名を知られています。 しかし、生の果物は時間との戦いであり、中には数日で傷んでしまうものもあります。多くの手間をかけて育てた貴重な恵みも、このままでは無駄になってしまいます。そこで台東の人々は、伝統的なものから現代的なものまで、果物を保存しエネルギー源として長く活かすための技法を編み出してきました。天日干し、漬け込み、発酵といった手法は台東の豊かな農産物の命を延ばすだけでなく、人と土地と時間を結びつけ、甘味を巡るクリエイティブな物語を今日まで残しているのです。 太陽の恵みを味わう:伝統的なドライフルーツ
生の果物にとって時間が敵であるなら、太陽は古くから心強い味方でした。雨季が終わると東海岸縦谷や沿岸平野は晴天が続き、強い紫外線が当たる日が続きます。この天候を生かし、各家庭では収穫の少ない時期に甘さを楽しめるよう、果物を天日干しにしてきました。その代表格が、薄くスライスして竹の網に並べ、太陽光を浴びながらゆっくりと水分を飛ばし、糖分と酸味をぎゅっと凝縮させたドライパイナップルです。 この習慣は何世代にもわたって受け継がれています。アミ族の集落では、野生のバナナやグアバを同じように乾燥させ、香り高い葉と一緒に重ねたり、編み籠に詰めて長期の漁に持ち出したりしました。こうした保存食は長距離の沿岸航海でも傷みにくく、貴重なエネルギー源となったのです。 現代では、バレンシアオレンジ、マンゴー、ローゼル、レモン、リュウガン、さらにはドラゴンフルーツまでが人気のドライフルーツに加わりました。これらは海外へ輸出されるほか、台東のスローフードネットワークや「東東市」といった地元産品のセレクト・発信・販売プラットフォームによって創作料理の食材としても活用されています。また、無印良品が手がける「Found Market」に代表される“無駄のないスロー経済”の流れの中で、成功や東河で栽培されたバレンシアオレンジの輪切りを天日干しにした商品が登場。オレンジアップルジャムや紅烏龍クッキーのオレンジフィリングと並んで店頭に並び、太陽の味わいをそのまま届けています。 発酵されたパイナップル:瓶に詰めた客家伝統
1800年代、客家人が台東に移り住んだとき、彼らは倹約と忍耐、そして発酵を軸とした食文化を持ち込みました。パイナップルが太陽の下でよく育つ鹿野の肥沃な火山性土壌では、余った収穫を長く保存するため、ジャムではなく発酵によって仕上げる独自の方法が編み出されました。 客家式の発酵パイナップルは、刻んだパイナップルに塩、砂糖、米酒、そして豆麴を加え、数か月かけて発酵させます。麴に含まれる微生物が発酵を促し、酸味・塩味・甘味・旨味が重なり合った食感豊かな調味料が完成します。蒸し魚の上にのせたり、苦瓜スープに加えたり、炒め物に混ぜたりと、日常の料理で大活躍。家ごとに甘草や薬草を加えるなどの工夫が施され、その味はまさに家庭の個性と地域性を映し出します。 本来は夏の恵みを収穫の少ない季節まで持ち越すための知恵でしたが、近年は一時期途絶えかけたこの伝統が再び息を吹き返しています。台東スローフード運動や地域の保存食づくりワークショップでは、地元の人々が集まり、先人たちと同じようにパイナップルを刻み、塩と豆麴をまぶして瓶詰めし、発酵させています。 発酵パイナップルは単なる調味料ではありません。それは季節や世代、歴史をつなぐ文化のタイムカプセルです。果物が太陽で急速に熟し、時間とともに傷みやすいこの地域で、この素朴ながら奥深い保存食は、手間と創意工夫があれば何ひとつ無駄にしなくて済むということを静かに教えてくれます。 釈迦頭:気候変動と地政学的リスクへの適応
台東を代表する果物のひとつに、クリーミーでカスタードのような甘さを持つ釈迦頭(バンレイシ)があります。卑南、太麻里、鹿野では、柔らかい食感の品種「大目」と、よりしっかりとした果肉を持つアテモヤの両方が栽培されています。 2000年代には、主に中国本土への輸出が地元農家に大きな繁栄をもたらしました。しかし近年、状況は一変しています。気候変動の影響で台風は勢力を増し、大雨や熱いフェーン現象により果実がすぐに傷んでしまう被害が頻発。さらに、カイガラムシ残留など品質管理の課題も重なりました。2021年には、中国が台湾産釈迦頭の輸入を突如停止。出荷先を失った「緑の宝石」が市場にあふれ、農家に深刻な経済的打撃を与えました。 過去の世代が困難な時代に保存食づくりで乗り切ったように、現代の生産者たちも変化に対応しています。政府機関が国内外の新たな販路開拓を進める一方で、一部の農家は台風を見越して早めに収穫を始めています。また、台東県政府、農協、研究機関、食品輸出企業と連携し、釈迦頭を1年間保存可能な付加価値商品へと加工──たとえば、香りと甘さを残したしっとり食感のドライ・アテモヤスライス──に転換しています。 さらに、ジャム、ゼリー、ケーキのフィリング、キャンディー、アイスクリーム、果実酒など、釈迦頭はさまざまな形に加工され、地元の観光土産店や高級レストラン、さらには東南アジア各国へも広がりつつあります。卑南の「春風果園」など革新的なブランドは、アテモヤのスパークリングドリンクやアテモヤ麺まで開発。これらの取り組みは、農家の収入源を多様化し、食品ロスを減らすだけでなく、この独特な果物の魅力をより多くの人に伝えています。 発酵酒とフルーツビネガー:伝統と革新に乾杯
豊かな果物に恵まれた台東では、原住民族や小規模生産者が季節のリズムと祖先の知恵を映し出す発酵飲料を古くから作り続けてきました。野生酵母を用い、添加物を極力使わず、ゆっくりと時間をかける伝統的な製法は、新鮮な果物をワインやビネガー、濃縮果汁へと変え、単なる食材以上に、記憶・文化・土地そのものを残してきました。 春になると、熟していない梅を収穫し、氷砂糖と地元の米酒や蒸留酒とともに瓶に漬け込む──梅酒は台東の家庭で最も親しまれる自家製発酵飲料のひとつです。数か月かけて果実が柔らかくなり、花のような香りと鋭い酸味が酒に溶け込み、甘酸っぱい一杯が完成します。家庭によっては甘草や紫蘇、唐辛子を加えて風味に個性を持たせるため、台東の梅酒は単なる飲み物ではなく、「故郷と家族の象徴」とも言えます。 梅酒と並び、消化促進や体を冷やす効能で知られる梅酢も広く作られています。黒糖と水で梅を発酵させて作るこの濃縮酢は、水で薄めて食前に飲んだり、ドレッシングやマリネの隠し味に使われます。これらの梅酒・梅酢は、ファーマーズマーケットや農協、スローフードのイベントで、家庭や集落の名前入りの美しい瓶詰めとして並びます。鹿野の「鹿家農園」では梅だけでなく、パイナップル、アテモヤ、ビワ、桑の実などの果実酢を製造し、試飲や体験ができるサロンも開設され、自ら果実酢作りを学ぶこともできます。 また、真紅のハイビスカス「ローゼル」も発酵に人気の食材です。台東の農家は秋の終わりに肉厚なガクを収穫し、ローゼルビネガーやローゼルワイン、ドライローゼルや砂糖漬けローゼルなどを作ります。ビネガーは鮮やかな赤色と華やかな酸味、高い抗酸化作用で知られ、蜂蜜や砂糖を加えて冷たい飲み物にすれば、台東の暑い季節の定番になります。近年では、その鮮やかな色と複雑な風味がバーテンダーやシェフに注目され、シロップやジャム、カクテルの素材としても活躍しています。 さらに最近では、こうした地元果物がビターズやインフュージョン、リキュール、ガーニッシュへと加工され、台東市のカクテルバー文化を盛り上げています。「Bar Cynic」「Bar Kumori」「Tatihi No Lalan」といったバーでは、台東の果物の物語をミクソロジーという形で語り直しながら、夜の街に新たな洗練をもたらしています。 祝杯の場でも、日々の健康習慣の中でも、これら果実の発酵飲料は台東の気候・創造力・文化交流を映し出します。世代を超えて共有される製法や物語、そして季節の恵みをつなぐ発酵は、単なる技法ではなく「生きた伝統」なのです。 変化を創造力で乗り越える
台東における果物保存の歴史は、その土地に暮らす人々の歴史そのものです。機転に富み、環境に適応し、そして豊かな味わいを育んできました。国際的な貿易環境が変化し、気候変動が新たな不確実性をもたらす中で、古来から受け継がれ、今も進化を続ける保存技術は、持続可能でしなやかな暮らしへの道しるべとなっています。 天日干しのパイナップル一切れ、スープに溶け込む発酵ペースト、アテモヤワインの一口──どの保存食にも物語があります。それは大地と太陽の恵みだけではなく、祖母の手仕事、農家の努力、記憶と革新、そして変化の中でも人々を養い続ける土地の物語です。果物は儚いものですが、保存によってその本質は長く生き続けます。 次号では、台東に受け継がれる原住民族の知恵──米やキビといった穀物を発酵の“種”として用いる酒造りや、料理の味わいを深める活用法──を探ります。もち米酒やキビの醸造、そしてスローフード料理に活かされる、発酵から生まれる麴の副産物まで、その奥深い世界をご紹介します。 |
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