2024-vol-04-taitung-times
Taitung Times Vol.03.2024
海辺の交響曲

本年度は、台東の地理をテーマに、読者の皆様に台東の魅力を深く伝えることを目的としています。台東特有の地形や気候、自然環境と、それらが育んだ多様な文化や経済、人々の暮らしを、多角的な視点から探求していきます。その中で、台東に対する理解と関心を深めていただければ幸いです。この第4号では台東の海岸線に焦点を当て、最後は「島々」と台東の神々しき空間を特集したいと思います。

耀き台東の海岸

台湾の南東部に約176キロメートルにわたり広がる台東の海岸線は、荒々しい断崖絶壁、手つかずのビーチ、そして紺碧の海が織りなす、息をのむような光景です。陸地が太平洋と劇的に出会うこの沿岸地域は、単なる地理的な境界線にとどまらず、生命にあふれ、豊かな文化が育まれた活気あふれる生態系なのです。

台東の海岸線は、その多様性でも知られています。北部の成功鎮付近では、切り立った断崖が海へとダイナミックに落ち込み、数々の芸術家や詩人を魅了してきた絶景が広がっています。南下するにつれて、地形は徐々に変化し、都蘭、杉原、太麻里などの広大な黄金色の砂浜が現れます。暖かい黒潮に洗われるこれらのビーチは、多様な海洋生物にとって理想的な生息環境であり、時にはウミガメが杉原ビーチに産卵することもあります。

黒潮に恵まれた場所

台東の沿岸水域は、栄養豊富な黒潮の影響を受けて、生物多様性のホットスポットとなっています。赤道から暖かい海流をもたらす黒潮は、多種多様な海洋生物を支えています。これらの水域には、シイラ、特徴的な帆のような背びれを持つメカジキ、細長いリュウグウノツカイとその油っこい親戚である銀ダツ、そしてさまざまな種類の剣魚やマグロなど、300種以上の魚が生息しています。また、色鮮やかな水中庭園を作り出す多数のサンゴが生息しており、海岸線には沿岸林や湿地が広がり、渡り鳥にとって重要な生息地となっています。バードウォッチャーにとっては、象徴的な台湾のウグイスなどの固有種に出会うことができます。

天然の冷蔵庫

黒潮はまた、台東の人口を支え、初期の原住民部族社会から、日本統治時代に新港漁港(現:成功漁港)の建設とともに発展した近代的な漁業産業に至るまで、豊かな漁業文化を育んできました。それ以来、漁業は数十年にわたり経済の生命線であり、漁師として直接だけでなく、数千隻の漁船や大武、富岡、杉原の漁港の建設や、魚市場や水産物加工に従事する人々など、無数の家族に仕事と生計を提供してきました。今日でも、台東には台湾で最も新鮮で多様な刺身の盛り合わせがあります。

アミ族の人々は、必要な魚介類や海藻がいつも手の届くところにあり、スーパーに行く必要も冷蔵庫で保存する必要もないため、海を「私の冷蔵庫」と呼ぶことがよくあります。

聖なる沿岸

台東の沿岸に住むアミ族、卑南族、一部のパイワン族にとって、海は生活の基盤であり、深い精神性と結びついた存在です。彼らの文化や社会のあり方は、海との共生によって形作られてきました。毎年、若いアミ族の男性たちは、伝統的な漁法を継承するため、素潜りや海況の判断、貝類の採取を学びます。それは、海のリズムや豊かさを深く敬う心から生まれた儀式への準備でもあります。

夏になると、海への感謝と敬意を表す儀式が行われます。祖先が海を渡ってきた苦労をしのび、自然や海の神々、豊かな恵みに感謝するのです。都蘭のアミ族の「ミケシ」と呼ばれる海神祭は、今では収穫祭に合わせて行われます。男性たちが年齢別に分かれて潜水し、魚や貝を捕る競争を行い、その成果によって地位を決めたあと、共同体で分かち合うことで、協力と尊敬の精神を示します。

東のハワイ

台東を訪れることを想像してみてください。広大な青い海に、夕暮れ時のピンクやオレンジ色のグラデーションが広がり、その背景には緑豊かな海岸山脈がそびえています。サーフィンに誘う波、キャンバスに描きたくなるような風景、脳をリラックスさせる波の音。台東は想像力を刺激し、心をリフレッシュし、都会のストレスを解消してくれる場所です。

そんな絶景が広がる台東の海岸線は、台北や東京といった大都市とは対極をなす、まさに都会の喧騒から逃れるためのパーフェクトな場所です。ウォータースポーツ愛好家、アーティスト、リトリートを求める人、恋に落ちたカップル、人生の新たな章を始める人など、さまざまな人にとって、この地での体験は人生を変えるものになるかもしれません。そのため、台東の海岸沿いの観光産業は急速に成長し、宿泊施設、レストラン、ウォータースポーツ、健康、エコツアーなどの分野で多くのビジネスが生まれています。

東河沿岸にはサーフショップやSUPボードショップが点在し、毎年11月には有名な金樽ビーチで台湾オープン・オブ・サーフィンが開催されます。都蘭はサーファー、アーティスト、旅行者、デジタルノマドが集まる場所として知られ、多くの外地人が定住して家族を持つようになったため、台湾でも最も多様性に富んだコミュニティの一つとなっています。外国料理店、バー、ライブハウスが数多くあり、アミ族の文化や芸術の中心地でもあります。

サーフィンに興味がない方でも、成功鎮周辺のカヤックショップ、海岸沿いのダイビングスポットで水中自撮りに挑戦したり、台東市郊外の卑南大圳でセーリングスクールを楽しんだりすることができます。三仙台や富岡漁港からはクジラウォッチングツアーに参加することもでき、その後はさまざまな予算や興味に合わせて選べる多彩な宿泊施設で、海を眺めながらリラックスすることができます。

「スロー」な開発

2000年代初頭、環境保護団体、アーティスト、そして地元のアミ族コミュニティは、パシファラン(都蘭岬)や杉原の美しい砂浜に建設予定だった美麗灣リゾートなどの大型開発プロジェクトに反対しました。特に美麗灣リゾートは、台湾でも屈指の美しいビーチに建設される予定であり、このプロジェクトに対する反対運動は、台湾の海岸線の保護に対する意識を高めるきっかけとなりました。住民たちの懸命な抵抗の結果、大型建設プロジェクトは実際に稼働することなく中止されましたが、リゾート施設自体は完成しており、現在は経済や観光開発の概念を再考する象徴となっています。台東県政府も近年、より慎重で持続可能な開発を目指す姿勢を強めています。

美麗灣リゾートの未使用の建物は、高級ホテルではなく、海洋保護と利用に関する教育施設として再活用される予定です。これにより、より多くの人々が生態系管理に関わるようになることが期待されています。

海岸の保護

かつて美しい台東の太平洋沿岸も、過剰漁業、海面上昇、プラスチック汚染といった世界共通の海洋問題に悩まされていました。海亀などの海洋生物は漁網に絡まったり、体内にプラスチックを蓄積して死亡するケースが増え、多くのビーチには缶や瓶、タバコの吸い殻が散乱していました。

これに対し、政府と地元コミュニティは連携して包括的な海岸管理に取り組みました。開発や漁業の規制強化、プラスチック削減対策、ビーチクリーンアップ、環境教育などが実施されました。地元企業やコミュニティも海岸線の保全に参加しています。

その成功例の一つが、杉原ビーチ北端の富岡です。漁業資源の枯渇に危機感を抱いた地元漁民は、1997年から自主的なパトロールと保全活動を開始しました。その後、政府は2005年に富岡漁業資源保育区を設立し、かつては枯渇していた海洋生態系が豊かな沿岸エコツアーの目的地へと変貌を遂げました。

保育区内は、禁漁区、緩衝地帯、持続利用区域に分けられ、管理されています。2017年には、保護区内で稚魚を放流し、3年後には地元漁民が収穫できる仕組みが導入され、保全と漁業の両立が実現しました。この取り組みにより、魚類やサンゴ礁の回復が進み、海亀の産卵も確認されるようになりました。成功を受けて、2018年には入場料を徴収し、景観歩道や干潟のギャビオン歩道を整備することで、教育やレクリエーションの機能も加わりました。

海と生態系、そして地元の人々が一体となったこのモデルは、海洋生態系の保護、地域経済の活性化、環境教育の推進が同時に実現できることを示しています。

地平線を眺める

台東の海岸線は、単なる陸と海の境界線ではなく、この地域のアイデンティティを形作る生きた存在であり、人間と自然の複雑な関係を物語っています。台東が発展を続ける中で、海岸資源の保全と持続可能な利用は、地域の独自性を守り、未来世代の繁栄を確保するために不可欠です。台東は、「スロー」で持続可能な開発を追求することで、海岸線の保全だけでなく、人間の生活リズムと海の永遠の潮の満ち引きが調和する未来、自然と共生する繁栄したコミュニティの実現に向けた道を切り開いています。

朝陽に照らされた台東の海岸線から、遠くに浮かぶ緑島が呼びかけています。黒潮を越えて神秘的な島を目指しましょう。次号では、数千年にわたって地元の伝説に語り継がれてきた台東の離島をご紹介します。

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