Taitung Times Vol.03.2023
台東ルネサンス:文化の復興に新たな定義を

ルネサンスは「再生・復活」などを意味するフランス語。世間一般的知られているルネサンスは古典古代であるギリシアやローマの文化を復興しようとする文化運動であり、14世紀にイタリアからやがて西欧各国に広り、またこれらの時代(14世紀 - 16世紀)を指すこともあり、当時は現代文明に影響を与え芸術面のみならず科学面でも爆発的な成長を引き起こしました。そのような文化運動が今の台東でも起こっていますが、台東のルネサンスとはどのようなものでしょうか?今回はこれに定義を与えるべく掘り下げてみましょう。

「台東ルネサンス」は、台湾台東県における原住民文化の覚醒と再生です。歴史を振り返ると、原住民はさまざまな外来政権の支配と現代の資本主義社会の圧力の下で自分たちの文化的アイデンティティを維持することに苦労してきました。しかし、方言を活性化させ、己のルーツと再び繋がることを試み、各の民族において強い自己認識を確立するため様々な努力を通じて、台東の原住民は新たな力と文化をまじ合わせることに成功し誇りを再び持てるようになりました。 

台東県の原住民コミュニティが彼らの文化遺産を現代社会で重要かつ誰の手にも届くよう努め、この原住民文化の目覚めはいくつかの段階にまたがっています。台東県政府もこのルネサンスの中心的な役割を果たし、2016年より伝統舞踊の普及計画、2018年の族語普及計画、そして2019年の部落伝統食普及計画などと過去数年間に渡り、台東の原住民文化を再び人々に認識されるための基盤となるいくつかのプロジェクトが実施されてきました。 

台東ルネサンスは原住民文化の復活だけでなく、原住民が台湾社会の構造に貢献しているユニークな持ち味を謳うことを意味します。台東県政府が進めるプロジェクトこそ、県知事の饒慶鈴がこの地の持つポテンシャルやこの土地で生活している人々へのリスペクトと言えるでしょう。近年の主な政策として「スローエコノミー」を推進していますが、その不可欠な部分として彼らの成功は重要であり、台東の原住民コミュニティの明るく活気に満ちた未来は県全体にとってとても重要な一環です。ここからはこのルネサンスが垣間見れるような事例をいくつか紹介します。

Bulareyang Dance Company:
金峰から世界へ羽ばたき、伝統舞踊とモダンダンスを結合

台東県金峰郷嘉蘭部落出身のパイワン族ダンサー・Puljaljuyan Pakaleva氏(読みやすいよう英字表示はBulareyangを愛用)は台湾の国立台北芸術大学舞踏部より卒業後クラウド・ゲイト舞踊団(雲門舞集)に入団し、台湾有数の名家・林懐民の元で腕を磨きます。その後アメリカのニューヨークに旅立ち、異国で経験を積み重ねてき彼はクラウド・ゲイトのみならず、アメリカの舞踊団からも演出のオファーを受け、その心に響くユニークな作品は世界でも名高いものです。

そんな彼は己のルーツである台東に2015年頃戻り、原住民文化をさらに掘り下げ、パイワン族に限らず様々な部族の文化を取り入れて作品を作り始めました。Bulareyang Dance Company(以下BDCと略)は台湾のみならず世界的にもその知名度が上がり、今でも進化し続けています。彼らは台北の国立劇場とコンサートホール、2018年の台北ランタンフェスティバル、京都の2019年の世界舞台デザイン展などさまざまなイベントや会場で演出され、これらの魅惑的なパフォーマンスは批評家の称賛を集めており、ニューヨークタイムズは劇団を「ビジョンとスキルを備えた舞踊団」と称賛しています。

先程にも述べた通りBDCは原住民の文化とモダンダンスを混ぜ合わせ、アミ族、パイワン族、ブヌン族などのさまざまな部族の伝統的な歌や音楽、そしてそれぞれのダンススタイルとともに取り入れています。このユニークな融合は原住民文化の美しさを世に示すだけでなく、過去と現在の間で対話を引き起こし、変化し続ける世界における文化保存の重要性も強調されています。

そんな中、台東県政府も重要な役割を担っており、原住民文化を世に広めるすべての有志のバックアップに尽力しています。リハーサルスタジオの整備や人材育成の面で様々なプロジェクトを立ち上げ、台東県で育てたスタッフが今年初めてBDCと共に台北のイベントで大役を果たされました。自治体としての責務を全うすべく、文化や芸術の革新を促すためBDCなど現地の団体と手を組み、強力なパートナーとして今後も支えていきます。

Ata(アタ)ビーズ・スタジオ:
過去では貴族の象徴であったものが今の旅人の記念に

台東市の観光スポットとしても有名な旧製糖工場に佇むAta(アタ)ビーズ・スタジオ、ここでは主に蜻蛉玉の制作・販売が行われています。かつては原住民伝統の飾りであった蜻蛉玉を手に取りやすいキーホルダーやブレスレット、ネックレスなどの商品に取り入れ、それぞれのデザインに込められた意味などもわかりやすく解説されています。

蜻蛉玉の歴史は何世紀にも渡りますが、そのルーツはパイワン族とルカイ族にあります。腕の熟練した職人によって丹念に手作りされたこれらの複雑な蜻蛉玉は重要な文化を表し象徴的な意味を持っており、過去に通貨の一種および社会的地位の表しとして使用されてました。蜻蛉玉は結婚、成人式、子供の誕生など、さまざまな人生の段階をも表します。それぞれユニークなパターンと色は着用者個人の人生そのものと経験を反映して、特定の意味を持っています。

ここでは完成した作品をそのまま購入することももちろんできますが、蜻蛉玉作り体験も提供されているため、自分だけのオリジナル蜻蛉玉を自分の手で制作することができます。職人の指導の下、あなたは様々な色と紋様からお好きなものを選び、その手で蜻蛉玉を焼き上げる、原住民の工芸をその身で体験することによってもっと彼らの歴史や文化と具体的につながることができます。

Ata(アタ)ビーズ・スタジオが所在する旧製糖工場は日本統治時代に設立され、今こそはもう砂糖を作ることがありませんが、地域再生のプロジェクトとしてたくさんの芸術家や店舗を迎え入れ、人気ある観光スポットへ変貌しました。外観は昔のまま、そのスペースを無駄にしないため様々な努力を重ねた台東県政府に共感し、テナントはいつも満たされている状態にあります。このリノベーションは県政府が自治体として地元の文化や人材育成の面での務めの現れでもあり、台東の豊富な文化や歴史を観光客が気軽に触れることができる生き生きとしたスペースなのです。

綿麻屋:かつて人命救助に励んでいたその手で、
部落のお母さんと共に台東オリジナルバッグを織り出す

台東の県道11号は海岸沿いの道であり、そこに小さなお店が佇んでいます。名前は綿麻屋(英字:Cotton)と呼び、その名前通り、売られている製品はすべてコットンで作られたもの。ハイクオリティなバッグや帽子はシンプルなデザインでありながらディテールにとてもこだわりがあり、あの高級ブランド「エルメス」の店員が目を惹かれ、自分たちのサブブランドではないかと疑われたというエピソードもありました。この話はエルメスのニューヨーク支店で起きた話で、実際に綿麻屋のバッグに使われている糸がエルメスが革を縫う時に使用するとても高級な糸と同じものであるため、一眼で分かったみたいです。

オーナーの龍恵媚は昔、病院のオペ室で看護師として勤めていました。15年間にわたるキャリアの中で数多の傷口の縫合を任され、その頃から「縫い物のマスター」と言っても過言ではないでしょう。時が経つにつれ、裁縫を通して編み物に興味を持った彼女は独学で様々な編み方を研究し、最終的に「隠し針編み法」を取り入れ、「一針入魂」の編み方にこだわっていきました。最終的に病院を辞め、編み物を仕事にしようと思ったのは、コンクールなどで自分の腕が認められてからになります。その中でも特別な出会いは、2010年4月の偶然の出来事でした。台湾の有名な企業家厳長寿が実践大学の教授たちと台東を訪れていたところ、県道を走る車の中で教授のうちの一人がお店に気付き、一行は店に足を踏み入れ、オーナーとの長い付き合いが始まりました。こうして様々なご縁に恵まれ、龍恵媚は自分の歩む道に革新を持つようになります。

綿麻屋のバッグは台湾のみならず日本でも小さなブームを起こし、タレントの渡辺直美や作家の一青妙もがそのデザインに魅了されました。発注から手に入るまで6ヶ月待ちという期間こそその人気の証でもあり、頑丈で耐久性に優れたデザインは誰もが気にいることでしょう。そんなニーズに追いつくため、龍恵媚は現地の原住民お母さんたちを招き、彼女たちの巧みな腕で共にこの店を支えています。さらに事業を拡大するオファーも絶えませんが、龍恵媚はこの地への責任を感じ、地域を盛り上げるため離れることはありません。

これぞ 台東ルネサンス

原住民の文化や歴史の再発見、彼らの昔ながらの伝統の再現、そして各々の自信を取り戻すこと、それが台東ルネサンスです。若い世代が伝統を受け継ぎ、自分の部落にまつわる文化を学び、自分のアイデンティティを確立させ、さらに現代社会にこれらのエッセンスを持ち込むことにより、台東たけの新たな時代が切り開かれます。

グローバル化が進む中、自分たちが持つユニークな文化をいかなる手段で守り抜くか。大きな課題ではありますが、台東県政府はすべてのジェネレーションの背中を推し、共に歩んでいきます。また漢民族や他の民族の人々もこの違いを受け入れ、多様性こそ台東の持ち味であることに認識を持つことも大事です。今後の世代に繋げられる台東特有のライフスタイルが、ゆっくり着実に形成されています。

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