以斯馬 (2)

(写真提供:以斯馬哈散農莊)

台湾東部の山間部で「油芒(タイワンアブラススキ)」という名称のユニークな穀物を復活させようという取り組みが行われています。油芒はブヌン族に伝わる伝統的な作物で、キビに酷似した外観をしており、穀粒の外皮は細かな毛で覆われ、タンパク質とカルシウム、マグネシウム等の植物性アミノ酸類を含み「未来のスーパーフード」と言われています。飲食文化の欧米化と経済価値の変化によりこの貴重な穀物は一時絶滅の危機に瀕していましたが、近年近隣部落が復活に向けて活動を始めたことから油芒が再度台東の山間部で栽培されるようになり、原住民文化に新たなチャンスをもたらしてくれるのではないかと期待されています。

台東縣政府

(写真提供:Taitung County Government)

台東縣延平鄉武陵部落で暮らすブヌン族の親子・邱貴春と邱曉徵は油芒復活のキーパーソンである。2014年、彼らは伝統農作物復活の理想を掲げて部落近くの山の斜面にて油芒の栽培を開始した。10年近い年月と努力をかけて彼らは畑の面積を1.2ヘクタールにまで拡大し、油芒は生き生きと生い茂っている。

復活における道のりは決して順風満帆ではありませんでした。台東の気候は変わりやすく異常気象も多い為、油芒の栽培には多くの困難をもたらしました。邱氏親子は先祖からの知恵と現代の農業技術を運用することで油芒の栽培に適した環境を整えることに成功した。元々油芒が強力な適応力と回復力を持っていたことも台東の山間部で成功した大きな要因の一つであると言えるだろう。

油芒の復活は農業生産に快復をもたらしただけではなく、ブヌン族の重要な文化継承のポイントにもなりました。ブヌン族にとって油芒は「記憶の中の味」でしかありませんでしたが、そこには土地と祖先から続く繋がりがあったのです。

以斯馬 (1)

(写真提供:以斯馬哈散農莊)

ブヌン族で飲食業を展開している邱智偉は油芒を積極的に料理に取り入れ、油芒サラダ、油芒リゾット、油芒手巻きなどの創作料理を開発している。これらの料理は観光客からの人気が高いだけではなく、油芒を食したことのない若者世代が改めて伝統的な穀物の味を知る良い機会となっています。

もう一名はブヌン族のシェフ・胡郁如だ。彼女は油芒料理を携えてイタリアで開催されたスローフード世界大会に参加し、台湾原住民の食材が持つ魅力を世界に対して示しました。彼女は油芒が世界で最も小さいポップコーンだと言い、低温で炒めることでサクサクとした食感が楽しめてとても特色があると紹介しました。

油芒の復活はこの地域の整体環境に大きな影響力をもたらしました。油芒は強い適応力の他、土壌の保水力を向上させる働きをもっており、多くの生物を保護するのに役立ちます。油芒畑は野生動物達に食物と住処を与えてくれることから山の生態バランスを快復する大きな助けとなるのです。

Taiwan Oil Millet

(Photo Credit: 蓋亞那工作坊kaiana)

富興米店 (1)

(写真提供:富興米店 )

油芒の復活が世界的な傾向と一致していることも注目に値する理由の一つです。国連食糧農業機関は2023年を「国際アワ年」と定義し、粟やキビといった伝統的な穀物が持つ栄養価と生態系にもたらす有益性について認識を高めている。油芒は台湾固有の粟・キビ類に分類され、その復活における作業は世界的に重要な意義があるのです。

台湾では長年にわたって台湾固有の在来種子に対する保存プログラムを行っており、油芒のような伝統的な作物の復活に対して多くの支援をしてきました。こうした取り組みは貴重な遺伝子資源を保護するだけではなく、気候変動への対応や食糧安全問題に対する新たな選択肢を与えてくれています。

油芒復活の成果は台東オーストロネシア文化の復興がもたらしてくれた希望です。しかし継続して発展し続ける為にはさらに多くの問題に立ち向かっていかなくてはなりません。これからどのように作付面積を拡大し、経済効果を高め、多くの若者に参加してもらうかがこれからの大きな課題となっています。

以斯馬 (4)

(写真提供:以斯馬哈散農莊)

油芒を山へ還す。これは穀物の復活という単純なものではなく台東オーストロネシア文化の復興でもあり、油芒は伝統的な知恵と現代技術の融合が、人と自然が共生してゆける可能性を示してくれたという象徴です。復活プロセスの中で私たちは文化継承、生態系の保護、そして持続可能な開発目標を成し得た美しい光景を見ることが叶いました。これからより多くの人々がこの結果に注目して活動に参加し、油芒が台東山間部で生い茂り多くの希望をもたらしてくれるであろうと信じています。

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