真夏の記憶は、台所に漂う香りから始まるという人も少なくない。まな板の上でパイナップルを半分に切ると、黄金色の果肉から果汁がにじみ出し、甘酸っぼい香りがたちまち空間いっぱいに広がる。パイナップル選びはそれほど難しくなく、皮が黄色になり、香りが豊かなものは、たいてい食べ頃である。こうした豊かな味わいの多くは、東部を代表するパイナップル産地である台東・鹿野から届いている。ここには工業汚染がなく、水はけのよい砂祪質の土壌が多い。さらに日照にも恵まれ、パイナップルは畑の中でゆっくりと甘みを蓄えていく。鹿野のパイナップル栖培面積は約200ヘクタール。品種は金鑑パイナップルが中心で、多くの家庭の冷蔵庫でおなじみの夏の味となっている。

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(写真提供: 饶嘅台東)

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(写真提供: 好時果子)

ゆっくり熟すからこそ、甘みは深くなる

南部と比べると、台東の冬は有効日照時間が短く、作物の成長もやや遅めである。同じパイナップルでも、ここでは収穫までに1年10か月を要し、ほかの地域より数ヵ月長くかかる。農家は急がせず、パイナップルもまた急がない。長い時間をかけることで、より立体的な香りと、層のある甘酸っぱさが生まれる。金鑑パイナップルを一口食べたとき、白桃やキャラメルのような余韵を感じる人もいるという。だからこそ、買ってきたパイナップルはすぐに冷蔵庫へ入れなくてもよい。風通しのよい場所に置き、自然に黄色くなるのを待つことで、いちばんよい状態で味わうことができる。

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(写真提供: 好時果子)

農薬は少なく、人の根気は多い畑

鹿野のパイナップル畑に足を踏み入れると、草生栖培を選び、農薬の使用を意識的に減らしている農家が少なくないことに気づく。肥料を与えるのは主に生育の初期だけ。その後は日差しのもとで養分がゆっくり代謝されるのを待ち、残留農薬ゼロの果実を目指している。 卑南では、農業修士の謹鴻さん、沛縮さん夫妻が、自分たちのブランド「好時果子」に一つの原則を立てている。それは、人工的に花芽を誘導しないこと。パイナップルに畑で十分な日差しを浴びさせ、自然に熟すのを待つ。こうして育てた金鑑パイナップルは糖度17.5度に達し、381項目の残留農薬検査にも合格している。農薬を一回減らすということは、その分、害虫被害のリスクを引き受けることでもある。それでも環境に配慮した農法を大切にする農家にとって、それは土地と長く付き合っていくために必要な距離感なのだ。

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(写真提供: 好時果子)

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(写真提供: 好時果子)

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(写真提供: 饶嘅台東)

真夏を残す

生のパイナップルをおいしく味わえる期間は長くない。だからこそ、夏を少しでも長く残そうと工夫する人たちがいる。鹿野の農家は果肉を薄く切り、40時間以上かけて低温乾燥させることによって水分が凝縮され、噴むほど香りが広がるドライパイナップルになる。紅寶石パイナップルでつくる鹿野紅寶石ドライパイナップルは、自然な酸味と香りがあり、ほかではなかなか出会えない味わいである。生の果実をアイスキャンディーにする人もいる。鹿野高台では、ひんやりとした「春一枝」のアイスキャンディーを一本味わうことができる。あるいは、パイナップルに砂糖、塩、豆粕を合わせ、昔ながらのパイナップル醸に仕込む人もいる。蒸し魚や鶏スープをつくるときに一さじ加えれば、逈全体の味わいがぱっと開き、食欲を誘う。

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(写真提供: 好時果子)

帰鄉した人々が、パイナップルを暮らしのかたちに育てる

こうした味わいの背後には、日々の暮らしそのものを風土として育ててきた人々がいる。2017年、鹿野へUターンやIターンされた5人の若者がそれぞれ家業を引き継ぎ、近隣の仲間たちとつながりながら、体験予約プラットフォーム「饶嘅台東」を立ち上げた。農作業体験や新鮮な果物を、訪れる人の前へ届けるためである。現在では、掲載店舗は60店を超え、商品も100点以上に広がっている。一つの季節の味を残すために、彼らはジャムとドライフルーツのギフトボックスも展開している。パイナップル、リンゴ、レモンを煮込んでパイナップルジャムにし、さらにローゼルやパッションフルーツなどの味わいを組み合わせることで、真夏の風味を一年中楽しめるものにした。鹿野のパイナップルは、もはや一つの果物にとどまらない。それは一つの暮らしのかたちである。土地から育ってきたこの力こそ、台東県政府がこの数年、寄り添いながら大切に守ってきたものでもある。

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(写真提供: 饶嘅台東)