味覚で感じる台東の風情

近年、台東では珈琲文化が静かに芽生え、西洋のスタイルを取り入れるだけでなく、地域色豊かな「台東ブレンド」を生み出そうという動きが進んでいる。草月咖啡館は、台東特産のローゼル(洛神花)に着想を得て、甘酸っぱい風味と珈琲の苦味が絶妙に調和したローゼル珈琲を開発。清厚咖啡では、原住民の伝統香辛料である刺蔥(アイラントス・プリックリーアッシュ)を用いた刺蔥ラテが話題で、特有の香りと珈琲のコクが融合する一杯となっている。海玥咖啡では、シチリア風を取り入れた「晩崙西亞珈琲」を提供。甘さ控えめで奥行きある味わいが特徴だ。これらの創意工夫に富んだ「台東特調」は、地域文化の象徴として台東縣政府も積極的に推進している。

普林斯肯 Miier.1992 Igok (3) (1)

(写真提供:@miier.1992)

草月咖啡 Eat88 Igok (2)
草月咖啡 Eat88 Igok (1)

(写真提供: @_eat88_)

力卡咖啡 (3)fbok

(写真提供:力卡咖啡)

在来食材──台東の秘密兵器

台東の珈琲店の魅力は、地元農産物との深い結び付きにある。2023年、台東では年間63トンのローゼルが生産されており、樂山咖啡農場では100%台東産のローゼルを用い、除草は手作業による自然農法で育てている。50グラム入りの乾燥ローゼルは、地元ならではの商品として人気だ。普林斯肯咖啡では、台東特産の鹿野紅烏龍茶を濃縮珈琲と合わせ、上質なブレンドを提供。清厚咖啡のオーナーは「刺蔥ラテを通じて、この伝統食材の存在と文化的価値を多くの人に知ってもらいたい」と語る。力卡珈琲では、原住民部落と連携して馬告(マーガオ)を仕入れ、原住民文化の温もりを感じる珈琲を提供している。

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(写真提供:力卡咖啡)

草月 Happiness Of Vanessa (1)ok

(写真提供:@happiness_of_vanessa)

部落文化と風土をつなぐ味わい

台東特調珈琲は、単なる味覚体験にとどまらず、地域文化への入り口でもある。力卡珈琲の馬告珈琲は、ブヌン族の「祝福と守護」の精神を象徴している。草月咖啡館のローゼル珈琲は、土地との結び付きがテーマで、2022年には「台湾で最も素晴らしい25の珈琲店」の一つに選ばれた。月間来店者数は2,000人を超え、そのうち40%は他地域からの訪問客だ。翠安儂風旅では、ローゼルを使った「ローゼルスパークリングアメリカーノ」を展開し、甘酸っぱさと珈琲の苦味が炭酸とともに広がる味わいは、まさに「深みのあるシチリア珈琲」。異国のものを真似ることなく、台東ならではの風味を打ち出している。

海玥 Zuohand Zz Igok

(写真提供:@zuohand_zz)

清厚 Ching Hou Coffee Igok

(写真提供: @ching_hou_coffee)

一杯から始まる、台東の魅力発見

台東の風土珈琲は、台湾全体の珈琲文化を豊かにし、地域に新たな経済機会も生み出している。現在、台東には50軒を超える個性豊かな珈琲店があり、およそ300人の雇用を創出。その多くはUターンした若者による起業によって生まれている。台東を訪れる際は、草月咖啡館でローゼル珈琲の酸味と甘みを、清厚咖啡で刺蔥の爽やかさを、海玥咖啡で東海岸の夕日と晩崙西亞珈琲を、力卡珈琲で浜辺を眺めながら馬告ラテを味わってみてほしい。風土珈琲から広がる体験が、伝統と現代、自然と文化が共存する台東の新たな魅力を伝えてくれるはずだ。