台東の原住民部落には、古くから語り継がれてきた伝説があります。勇士サヤン(沙漾)は山へ狩りに行く際、干し食料を持たずに出かけても、いつも山猪や野兎、ムササビを携えて帰ってきたといいます。不思議に思った族人が後を追うと、彼の家では樹豆と山猪肉のスープが煮込まれていました。それ以来、この料理は「勇士湯」と呼ばれるようになりました。アミ族の言葉で樹豆は「ヴァターン」と呼ばれ、この豆類はたんぱく質を20~22%、でんぷんを55%含み、亜鉛や鉄分、ビタミンE、ビタミンB群などの栄養素も豊富な故「豆の王様」と称され、部落にとって重要な食料資源となってきました。

(写真提供:台東県農会)
乾燥に強く、大地と共に生きる作物
樹豆が主食として受け継がれてきた背景には、その強い生命力があります。乾燥や痩せた土地にも耐え、山坡地農耕において重要な役割を果たしてきました。また、窒素固定によって土壌を改良し、環境にも優しい作物です。伝統的には主作物の周囲に添えるようにして少量ずつ植えられ、収穫後は手作業で莢を剥き、豆を選別する必要があったため、収量は少なく非常に貴重な存在でした。冬は収穫期で、新鮮な樹豆は赤や緑、黒などの色を持ち、小粒で艶やかで、部落文化の中では吉祥や幸福の象徴ともされています。

(写真提供:台東県農会)

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一杯の熱いスープに込められた手間と知恵
貴重な樹豆を最もおいしく味わうため、調理には工夫が凝らされています。勇士湯は一見素朴ですが実は繊細な工程が必要で、生の樹豆はそのまま使用でき、乾燥豆の場合は少なくとも二時間浸水させます。栄養価を高めるため、冷蔵庫で数日間発芽させることもあります。豚足や排骨(骨付きあばら肉)を下茹でして血抜きを行い、樹豆と生姜とともに約九十分間じっくり煮込み、最後に米酒と塩で味を整えます。部落では、にんにくやパクチーを添えたり、大根やトウモロコシを加えたりすることもあり、高たんぱく質とでんぷんを兼ね備えたこのスープは、狩人に必要な十分なエネルギー源でした。


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部落の食卓から現代の食養生へ
この伝統的な知恵は、現代の食卓でも新たな形で受け継がれています。近年、台東県は食農教育や部落の食文化振興を積極的に進め、産地と食卓をつなぐ取り組みの中で、樹豆が最初の主役として選ばれました。台東の飲食店では、樹豆を使ったモンブラン風デザートが提供され、勇士の力を創作菓子として表現しています。また卑南では、米や月桃の花と組み合わせた樹豆カレー巻きが生まれ、ウコンやココナッツなどの香辛料とともに、花東地域の作物の奥行きを伝えています。伝統的な煮込み料理から革新的な一品まで、樹豆は多様な姿で日常の食に戻ってきています。

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冬の市場に広がる原住民の味わい
この風土の味を体験したいなら、台東の市場を訪れてみてください。冬の市では、原住民の女性たちが温かな語り口で樹豆の選び方や調理法を教えてくれます。一袋一袋の新鮮な樹豆には、食を大切にしてきた部落の知恵が詰まっています。勇士湯は、体を温める滋養食であるだけでなく、原住民族が土地と共に生きてきた記憶そのものです。その一杯は、旅人がゆっくりと味わうべき文化の物語でもあります。



