大王部落の刺繍継承
台東県太麻里郷・大王部落にある陳利友妹氏のアトリエでは、一針一針に色糸だけでなく、パイワン族が代々受け継いできた文化の記憶が縫い込まれています。台東初の国家級「人間国宝」として認定された彼女は、曽祖母、祖母、母の技を継承し、パイワン族のKinavatjesan伝統刺繍に新たな光を与えました。60年以上の研究と実践を経て、彼女は8種類の伝統図案技法をまとめあげました。それらの技法には日常の記憶や祖霊の神話が込められており、百歩蛇や壺のトーテムは貴族階級を示し、祖霊の継承と神聖な祝福を象徴しています。

(写真提供: @lavaus_studio )

(写真提供:台東県政府)
達魯瑪克の信仰刺繍
台東県卑南郷・達魯瑪克部落では、羅美玉氏は1987年から36年間にわたり、ルカイ族の刺繍文化の継承に尽力しています。彼女は36年間にわたり、伝統衣装の指導者としてルカイ族の伝説を刺繍で表現し、地方美術展や国家工芸賞など数多くの賞を受賞しました。2019年には「伝統工芸保存者」として登録され、翌年には「台湾工芸之家」にも選ばれました。彼女の作品は伝統的な枠を超え、キリスト教信仰と結びついた「台湾島キリストの聖なる光の刺繍」など、個性豊かな表現を生み出しています。
若い世代の文化の新しい解釈
台東の刺繍文化は現代においても新しい姿を見せています。その象徴ともいえるのが「花線 HuaSian」の創設者・陳品萱氏です。彼女は2015年からプユマ族の伝統衣装の色彩や刺繍技術を作品に取り入れ、赤・黄・緑のプユマ族カラーを基調とした民族風のパッチワークバッグを製作しています。布地もこだわり、独自デザインの花布を使い、部落の女性たちと協働して刺繍の技を生かしながらパッチワークと融合し、文化の層を深めたデザインを生み出しました。刺繍は得意でもパッチワークは未経験という部落女性にとって、彼女との協働は新たな機会となっています。

(写真提供: @huasiann )


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ファッションと教育の両輪で推進
台東県政府は、原住民族文化を世界に広めることに力を入れており、2022年の台北ファッションウィークでは「出会い:住民族人間国宝×ファッション」をテーマに、陳利友妹氏とデザイナー周裕穎氏がコラボレーションしました。彼女は自ら2着の衣装を制作したほか、数十年にわたり集めてきた100枚以上の刺繍パネルを提供しました。パイワン族のトーテムと階級の象徴をテーマに、緑を基調とした豪華なプリンセスドレスは、会場を驚かせ、原住民族のファッションに新たな視点を提案しました。また、2022年には「台東生活美学館」でKinavatjesan刺繍の研修クラスも開講され、技術の継承と普及に貢献しています。

(写真提供:台東県政府)
部落から世界へ──文化外交の広がり
台東の刺繍工芸は国境を越えて広がりつつあります。2025年7月には、文化部の支援を受け、陳利友妹氏を含む複数の人間国宝級の工芸師が、米国ニューメキシコ州サンタフェ市で開催される「国際民間芸術市場(IFAM)」に参加し、57か国142名の世界的アーティストと深い文化交流を行います。この国際舞台では、台湾原住民族の貴重な文化遺産、とりわけその「母から子への伝承、世代間学習、部落協働、口述と手作りの伝統、歌と物語の共有」といった独自の継承スタイルが紹介される予定です。

(写真提供:台東県政府)