風土への適応: 天日干し、塩漬け、そして文化的 レジリエンス |
台東は、肥沃な大地、豊かな生態系、そして多様な海洋生物に恵まれた、自然豊かな場所です。しかし、台風や地震などの自然災害、部族間の争い、移住の波、植民地主義といった、予測不能な出来事にも度々見舞われてきました。さらに、人口の少なさや地理的な要因から、物資の供給も不安定になりがちでした。こうした厳しい環境の中で、台東の人々は、独自の保存技術を育んできました。肉、魚、果物、野菜、穀物、茶など、様々な食材を塩漬け、漬物、発酵、燻製、乾燥させることで、食料を長期保存し、地域の食文化を豊かにしてきたのです。これらの保存技術は、単に食料を保存するだけでなく、台東の人々の知恵、工夫、そして逆境に立ち向かう力強さを物語っています。今回は、蘭嶼でのトビウオの天日干し、緑島での「タコの凧」干し、そして台東沿岸部での貝類の塩漬けとそれにまつわる儀式や文化継承について紹介します。 島の風土と孤立が育んだ文化の工夫
蘭嶼と緑島という台東の離島はその荒々しい自然と同様に、地理的孤立によって形作られてきました。亜熱帯海洋性気候のもとで、強烈な日差し、絶え間ない海風、高湿度、そして台風の季節的な脅威が特徴です。歴史的にこれらの島々との交通は不定期で天候に左右され、新鮮な輸入品に依存することは困難でした。蘭嶼のタオ族は台湾本島の原住民族とはほとんど交流がなく、危険な黒潮と64キロの海が文化的隔たりを生みました。そのため、腰布、銀の冠、髪を振る踊り、地下住居、細工の施された板舟(チヌリクラン)など、独自の文化を発展させました。 このような孤立環境において、人々は周囲の資源である塩分を含む空気、熱、風、そして伝統知識を活かし、季節の恵みを長持ちさせる保存技術を編み出しました。それは単なる生存手段ではなく、海や大地が与えてくれるものを最大限活用する方法でもありました。こうした気候的・地理的制約のなかから、天日干し、日干し、発酵、塩漬けといった保存法が生まれ、島の生活リズムやアイデンティティに深く根づいてきたのです。 蘭嶼でのトビウオ干しにまつわる儀式の巡り
蘭嶼ではタオ族が海と季節に密接に結びついた生活様式と文化を育んできました。面積わずか45平方キロメートルの島の限られた資源のもとで、気候が生活リズムに影響し、保存技術が不可欠となっています。トビウオ(タオ語で「libangbang」、天の贈り物の意)は、タオ族の文化的アイデンティティと自然との調和の象徴です。 毎年3月から6月にかけて、黒潮に乗ってトビウオの群れが島に到来し、漁の季節と一連の儀式的カレンダーの始まりを告げます。コミュニティの厳格な規範(成魚のみ、夜間のみ、季節内のみ、男性クルーのみ)が持続可能性と文化の継承を支えています。捕れた魚は内臓を取り、塩をして、背開きにされて、竹の棚や屋根の軒先に吊るされ、日中は天日干し、夜は燻製を交互に行い、層状で噛み応えのある黄褐色の乾物へと仕上がります。強烈な日差しと海風が、魚を長期保存可能な状態にまで乾燥させます。 現代では冷蔵保存も可能ですが、伝統的な手法はアイデンティティとレジリエンスの表現として残っています。干しトビウオは茹でると身が引き締まり、特別な木製トレイに盛り付けて供されます。乾燥により身が骨から離れるため、再加熱後は簡単に骨が取れます。残ったものは、唐辛子・生姜・醤油・ニンニクで炒め物にしたり、野菜や肉と合わせてスープや煮物にも使えます。少量加えるだけで、料理全体に海の香りが漂います。 緑島を泳ぐ「タコの凧」
隣の緑島でも、同様に創意に満ちた保存技術が生まれました。巨大なタコをきれいにしてから広げ、竹竿に吊るして風に揺らすことで、まるで空を飛ぶ凧のように干されます。 ここでも気候が重要な役割を果たします。海風が湿気を調整し、空気中の塩分が味付けと保存に貢献します。強い日差しは表面を素早く乾かし、カラメル化によって外側に風味を閉じ込めます。出来上がった干しタコは、濃厚な旨味と弾力を持ち、深い茶色が特徴。魚のちまき、炒め物、スープ、おかゆなどの料理に使われます。 この干し技術は成功地区にも広がり、夏には家庭の庭でタコを干す光景が見られます。コロナ禍で鮮魚販売が落ち込んだ時期にはこの「タコの凧」が家計の支えとなり、長期保存や輸送が可能な干物として最大2,000元で売られることもありました。漁業依存の成功にとって、経済的なバッファーとして機能しました。 アミ族の海辺の知恵:潮間帯の採集と塩漬け文化
黒潮を越えて本島に戻ると、台東本土の長浜に暮らすアミ族は、飛び魚を燻製にすることで気候の違いに適応しています。捕れた魚は塩水と米酒に漬け、アカシアとヤマグワの木を混ぜた半乾きと乾燥の薪で燻します。煙は穏やかで、焦げることなく保存され、しっとりした食感を保ちます。これは日本の一夜干しにも似ています。 舟文化が衰退したアミ族は竹で作った筏や現代的な漁船を利用してきましたが、潮間帯での採集、河口での投網、岩場での貝や蟹、ウニ、小エビなどの採集文化は維持されています。貝やウミウシ、貝類の保存法も、家々の瓶詰めに姿を変え、文化的知識の小さな保管庫となっています。 例として「A’lem(醃石鱉)」は硬い殻を持つ貝類チトンで、「鉄の戦士」とも呼ばれ、塩漬けで酒の肴に最適。「Anato(醃魚鮮)」は魚の内臓を塩漬け・発酵させたもので、深みのある味わいを持ち、一部のシェフに珍重されています。長浜の一耕食堂ではAnato をオリーブオイルとニンニクでソースにし、野菜炒めに加えてアンチョビペースト風にアレンジし、食の旅をアミ族の物語とともに提供しています。 海洋文化の認識・再生・回復へ
近年、アミ族の潮間帯採集という静かな伝統が、文化と食の復興の一環として再評価されています。台東県政府とスローフード運動の支援により、これらの技術は持続可能な食文化であり、生きた知識体系として讃えられています。2025年春、成功鎮で開催されたスローフードフェスティバルでは、アミ族のおばあさん(Ina)たちが、月と潮を頼りに岩陰から貝や海藻を採る「micekew」技術が紹介されました。 また、書籍『都歷の海事』は成功アミ族の生態知識を記録し、政府による富山漁業保護区の設置はアジア太平洋の価値観に根ざした環境保全の姿勢を示しています。 蘭嶼では作家のシャマン・ラポンガンがトビウオの精神的・文化的重要性を長年にわたり記録し、干されたトビウオの写真が毎年数千枚ネットで共有され、グローバル化の中でもタオ文化の力強さを証明しています。 食の保存は環境との共生
台東の人々にとって、食の保存とは単なる生存手段ではなく、自然との調和の方法でもあります。干し、塩漬け、季節を重んじた採集など、すべてが自然との循環の中にあります。これらは料理文化という枠を超え、気候変動に対応する知恵であり、文化的コードとして組織化された環境倫理の表れでもあります。 次号では、海から離れて、台東の香り高い果樹園と肥沃な斜面に注目します。バンレイシ、パイナップル、マンゴー、ビワなどの果物がどのようにジャム、干しフルーツ、ビネガー、果実酒へと加工され、1年中甘さと喜びをもたらしているかを探ります。 |
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