豊かな土地を持つ台東では、アワは農作物としてだけではなく原住
(写真提供:@ulivelivek)
豊かな土地を持つ台東では、アワは農作物としてだけではなく原住民族達の文化的記憶と精神を伝える重要なシンボルにもなっています。金峰鄉の新興部落から關山にある崁頂村に至るあらゆる場所で、アワ畑で勤勉に働く人々の様子が見られることからも原住民族達の土地に対する深い結びつきが見えてきます。
(写真提供:@ulivelivek)
伝統的なアワ耕作は台東の原住民部落で暮らす人々が持つ独特な生態に関する知恵を体現していると言えるでしょう。例えば大竹溪流域で暮らすパイワン族の人々は現代の農民暦に頼らず、自然の変化を観察することで農作業の手順を決めています。彼らは無患子(ムクロジ)の実が落ちる頃焼畑の準備を始め、烏皮九芎樹(台湾エゴノキ)が花を咲かせる時期が訪れれば、開花期間である一ヶ月以内に種を蒔きます。アワは虎婆刺(オオバライチゴ)が赤い果実を実らせて雨季の訪れを知らせる頃に穂を出し始めます。そして猿尾藤(ウスバサルノオ)の種子がクルクルと旋回しながら舞い落ちる頃になると、部落では収穫祭が開催され、自然の恵みに感謝し、豊作を祝います。
サルジングサン家族の伝統的な指導者の家の前で、トゥバン勇士団が勇士の舞を披露(撮影:蕭仲廷)
(写真提供:@go.where77)
達仁鄉の土坂部落で暮らす原住民達は伝統農耕の知恵を今も受け継いでいます。彼らは自然農法を重要視しており、収穫後の畑には八月豆(ハッショウマメ)や豇豆(ササゲ)といったマメ科植物を植え、窒素固定作用によって土地に養分を補充することで次の種まき準備を始めます。關山の崁頂村に位置するブヌン族の蓋亞那工作坊はアワ文化を伝える為の重要な文化継承拠点となっており、様々なアワの品種を保存しているだけではなく農村再生プロジェクトと部落開発を一体化させることに成功しています。アワの収穫量は決して多くありませんが、品質に優れており、二分地から三甲地へと植え付け面積を拡大する際は村の総力を集結して執り行われました。
(写真提供: @taiuangirls)
現在アワ文化の継承は多くの課題に直面しています。2022年の時点で台湾のアワ栽培面積は91ヘクタールしか残っておらず、輸入品に比べてコストが高い国産アワは一斤あたりの価格が600元まで高騰する事態になっていました。このような苦境を前に台東県政府は地元組織と協力体制を取り、12の小中学校でアワに関する食農教育を行い、毎週木曜日の昼食に国産アワを提供するといった様々な方法でアワ文化の支援を行い、この文化遺産に賛同する新世代の認識育成を行なっています。
台東県政府は近年スローフード運動を通して国際舞台で積極的にアワ文化の推進を行なっています。2024年に開催された台東慢食評鑑(台東スローフードセレクト)では多くのレストランがアワを使った新しい創作料理を披露し、地元食材の持つ無限の可能性を示唆しました。中でも「M’Loma」は原住民の伝統的な飲食文化に現代的な料理プロセスと融合させることに成功して二つ星を獲得し、紅葉谷綠能溫泉園區にある尋星廚房は斬新なブヌン料理を披露することで「ライジング・スター」賞を受賞しています。
国際交流の面では、2024年にイタリアのトリノで開催された「スローフード世界大会」(テッラマードレ – サローネデルグスト)に7組の代表チームを派遣し、台東独自のアワ文化を世界に向けて発信しました。代表チームは原住民の食に対する知恵を用いて作られたアワ料理の持つ多様性を展示や交流といった手段を通して紹介しました。台東では一粒のアワにも先祖から受け継がれてきた知恵と土地に対する愛情が込められていると言われています。スローフード運動の推進により、この貴重なアワ文化は守られるだけではなく、新時代に対応した新たな力を発揮して、伝統の知恵と現代のイノベーションが共存しつつ、未来に向かって繁栄してゆく美しいビジョンを私たちに見せてくれています。
南島文化についてもっと知りたい方、体験したい方はこちらをクリックしてください。