緑の楽園 |
本年度は、台東の地理をテーマに、読者の皆様に台東の魅力を深く伝えることを目的としています。台東特有の地形や気候、自然環境と、それらが育んだ多様な文化や経済、人々の暮らしを、多角的な視点から探求していきます。その中で、台東に対する理解と関心を深めていただければ幸いです。前回の平原テーマに続き、今回は台東の森林を、そして今後は台東の河川、島、海岸を順次取り上げ、最後に台東の神々しき空間を特集したいと思います。 母なる大地
森は、遥か遠い祖先の頃から今までの私たちを生み育ててくれただけでなく、太古の昔から人類にとって宝の場所だったのです。お腹が空いたら、キノコやジビエなどのご馳走を見つけられる冷蔵庫みたいな場所であり、病気になったら、薬草を見つけられるお薬屋さんみたいな場所でもあります。そさらに私たちの心や魂を豊かにしてくれる、物語や伝説の舞台にもなってきました。台東の森も、もちろん例外ではありません。 台東の森たち
台東では、森林は山そのものと言えるでしょう。ポルトガルから来た探検家たちがこの島を「フォルモサ(美しい島)」と呼ぶきっかけとなった緑豊かな森林は、そびえ立つ峰々を巨大なコケの毛布のように覆い、台東の176kmにも及ぶ海岸線に打ち寄せる紺碧の海とのコントラストを際立たせています。 衛星写真を見れば、台東県を北東から南南西にかけて、2本の濃い緑色の帯が走っていることがすぐに分かります。海岸沿いには海岸山脈と呼ばれる狭い山脈があり、左側には花東縦谷によって隔てられた険しき中央山脈があります。つまり、台東の2つの主な森林地帯は花蓮県と共有する海岸山脈と、台湾の他の地域と共有する中央山脈です。 森に抱かれし県
台東の森は野生動物のすみかであり、緑豊かな植物が生い茂っています。そして、先住民の文化に見られるアニミズムの形成に大きな役割を果たしたことは無論でしょう。 アニミズムの世界観は人間と自然との共生関係を前提としており、人間は自然界の一部であると考えられています。が、自然と一体であるということは決して人間が動物や植物よりも劣った存在であるという意味ではありません。アニミズムは動物や植物、物体を人間と同じレベルにまで高めて擬人化したもの。さらに意志や道徳的価値観、人格を与えることもあります。実際の人間と同じように、擬人化された存在にも自我があり、恨みを抱くこともあるのです。 例えば、ブヌン族には以下のような伝説があります。 昔々、赤松は人間が薪を集めやすいように、勝手に人の家に入っていました。しかし、人々から感謝されるどころか、逆に迷惑がられた赤松は怒りの余り高い山の急斜面に引っ越してしまいました。それ以来、部族民は足を痛めながら苦労して薪を集めるしかなくなったのです。 「走山拉姆岸:中央山脈布農民族植物」より この物語は、一見単純な寓話のように見えますが、実は現代社会よりもはるかに賢明な見解が含まれています。私たちが環境を当たり前のように利用すれば、環境は私たちを罰するように仕向ける、それが「自然」です。人類と自然の関係はあらゆる関係と同じく、互いの努力によって成り立っています。自然は生命を維持するための資源を私たちに提供してくれる一方、私たちが貪欲にならないことを求めているのです。 それを知っている先住民は自分たちの生存が自然との調和に依存していることを常に意識してきました。一方、資本主義は自然を経済的な観点からしか見ようとせず、森を「資材」、木を「商品」と捉えています。 しかし、近年では「外部性」という概念が重視されるようになり、台東の先住民が昔から知っていた「自然は感謝する人にだけ寛大である」という考え方が、徐々に社会全体に浸透し始めています。台東はこれまでに多くの移民を受け入れてきましたが、伝統的な自然を尊重する気持ちは失われていません。アニミズムによる影響は昔と比べ弱まっているかもしれませんが、台東県民の自然との共存の仕方には依然として大きな影響を与えているのです。 宝の山
台東の森や山は、先住民にとって「宝の山」であり、必要なものが何でも揃う大きな売り場のようなものでした。先ほど述べた通り、お薬屋さんや食材の供給、洋服店、さらにはホームセンターのような役割を果たしていたのです。 工業社会と同じように、台東の先住民社会も森を利用してさまざまな商品を生産していました。楮の樹皮は「樹皮布」を作るのに使われ、これは太平洋の多くのオーストロネシア人にも共通する文化的特徴で、その布は「タパ」として知られています。ラミーという植物の繊維は、あらゆる種類の織物になりました。家屋は一般的に木造で、トーテムポールや神像にも彫刻されました。 大きな違いとして、先住民は決して森の資源を「奪う」だけではないということです。彼らは森を自分たちが身を置く生態系であり、どんなに取るに足らない存在であっても、それぞれが果たすべき役割があると考え、森との関係を維持するために、一連の儀式や仕来りが発達しました。 たとえば、台東のブヌン族は毎年「射耳祭」という成人式と狩猟の祭典を行我、祭りの前にブヌン族の男たちは鹿を狩るために森に入ります。殺された鹿の耳は祭壇に釘付けにされ、村の少年たちはそれを矢で射抜いて、射撃の腕前と男らしさを証明しなければならない儀式であります。 この祭りが果たす社会的役割は明らかです。先住民コミュニティにとって、自分たちが依存している生態系の状態から「還元を集める」機会でもあるのです。今年の森はどうなのか?動物の生息数は安定しているのか?木々は健康なのか、それとも害虫に悩まされているのか?こうした儀式は、長老世代が若者たちに射撃技術や毛皮の追跡といった難しい技術を伝えるだけでなく、自然の均衡における利害関係者としての役割を押し付けるものでもあるのです。 平地に所在する森林
山林のほかにも、台東県内には小さな「平地林」が点在しています。その中でも、台東市を訪れる旅人が必ずと言っていいほど立ち寄るのが、台東森林公園です。北は卑南渓のデルタ地帯、南は台東市に挟まれた台東森林公園は、黒々としたモクマオウの木が多いことから、地元の人々から「黒い森」と呼ばれて親しまれています。 台東森林公園の面積は約280ヘクタールといった小規模な公園ですが、台東市の緑の「肺」として、レクリエーションエリアとして、ハイキングやサイクリングのパラダイスとして、世界的に有名なトライアスロン「チャレンジ台湾」や「アイアンマン」の水泳の競技場として、そしてもちろん、大小さまざまな動植物の生息地として、さまざまな役割を果たしています。 台東森林公園は、その小さな規模にもかかわらず、経済面、文化面、環境面で森としての重要性を示しています。また、台東県政府が森林と野生生物の保護全般に関して積極的な育成の役割を担っていることも目にすることができます。 緑のチャンピオン
台東はPM2.5などの汚染物質が常に最も少ない地域として知られておりますが、県全体の81.64%が森林に覆われていることから由来しております。そして同じく東海岸に所在する花蓮と宜蘭がそれぞれ80.54%と78.55%で2位と3位に続いています。 森林面積が広ければ、空気がきれいになり、より健康的な環境になる、これは画然たるものでしょう。もちろん、人口密度や工業・農業活動の活発さなど考慮すべき他の要因もありますが、台東は全国で最も人口密度が低く、県内に重工業がほぼないため、新鮮な空気を確保する上で有利な状況にあります。 しかし、人口密度と経済活動が必ずしも環境破壊を意味するわけではないのも事実です。オランダを例えにしますと、台湾とほぼ同じ人口をわずかな面積の中に抱え、GDPは約50%上回り、産業廃棄物以外の何物でもない国です。台東のスローエコノミーとは国連のSDGsに沿った持続可能な経済成長の見取り図であり、台東に古くから伝わる古来の知恵でもあります。 結論として、台東の緑豊かな森林は、美しい景観を作り出し、旅行者を魅了し、空気を清め、住民に限りない喜びを与えています。県政府は森林が持続可能な観光の鍵であり、豊かな緑は歴史、文化の要であることを認識し、人新世における人為的被害を軽減するために重要なこれらの生態系を保護することを目指しています。台湾の森林の多くを受け継ぐ台東県は、宝の山を守ることに全力を注いでいます。 台東県の高峰を分断しているのは、無数の小川によって形成された広大な帯水層ネットワークです。一方では台東の住民に貴重な淡水を供給し、他方では台風や大雨の後にはまるで夜叉の如く、計り知れない破壊をもたらします。次号の内容では、台東県民と県政府が、いかにしてこの波乱万丈の水路と共存してきたか、詳しくご紹介します。
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